「高周波系フィルター」

フィルターをテーマに取り上げてみました。
それも、いろいろ問題の多い高周波系フィルターです。
電波の出入り口には必ず必要な物ですが、鮮明に理解している人は以外と少ないようです。

特にミニFM関係ではフィルターの重要性がほとんど理解されていないようです。
また非常に興味深いことは、技術的な世界で有りながらフィルターやアンテナなどの高周波系
の重要な部分の多くに何とも奇妙な迷信じみた内容が「はいかい」し正しい知識を持つ人間ま
でもを、その迷信の中に引き込み混乱させる様な宗教的な世界が展開しております。

電波の出口でのフィルターにはローパスフィルター、バンドパスフィルター、などの、ゆわゆ
る高周波系フィルターと言われているものの他に、バンドパス特性を持つ通称アンテナカプラ
ーもフィルターの仲間です。

今回の企画は特に電波の出口に如何にフィルターが重要な役割を果たすか、また何故フィルタ
ーが必要なのか、有効なフィルターとは、 また、近年便利な高周波増幅用ICとして多用さ
れているμPB1677をFM帯域で使用した時の高調波特性を改善するフィルターも視野に
入れ、さらに最近注目されているフィルターの信号損失とVSWRの因果関係を明らかにして
言いたいと思います。

始めにお断りしておきますが、如何に優秀なフィルターで有っても、送信機や後続の増幅器な
どが持つ固有の性能障害を改善するものでは有りません。
優秀なフィルターを入れても送信周波数の安定度はよくなりませんし、増幅器などのパラスチ
ック発振(寄生発振、パラジット)などは改善されません。
よく改善されたと勘違いする人がいるのでねんのため始めに解説しておきます。
増幅器(ブースター)などで起こすパラ発振は高域で起こる事が多いのでローパスフィルター
を入れると軽減し見かけ上改善された用に見えるだけであって増幅器の持つパラ発振が止まっ
た訳でもなく増幅器の基本性能はそのままなのです。 この様な増幅器はそれを使用する以前
の話しです。
送信機の周波数安定度もにたようなものです、ミニFMで使用している送信機はアンテナを接
続する最終段の回路が、いい加減なためアンテナの外部誘導が原発振段に影響を及ぼし周波数
の安定度を劣化させます、そこに安定なインピーダンスを持つフィルターを入れるとフィルタ
ーが緩衝器として作用し見かけ上周波数が安定したかに見えますがこれはフィルターで無くと
も3〜6dBのアッテネーターでも同じなのです。

今回はもう少し踏み込んだところでのフィルターとしてのフィルターの話しとしてすすめて行
きたいと思います。

フィルターの前に高調波について、すこし予習しておきます。
何もしないで高周波回路から電波を出した以上、おおかれ少なかれ必ず高調波が発生します、
どんなに優秀な高周波回路でも出るのが高調波です。
いいかえれば高調波の出ない高周波回路は存在しないのです。

そこで高調波を規格内に押える高調波フィルターが必要になってきます、
また最近の高周波回路(※1)の設計は昔のように高調波の発生を出来るだけ少なくなるよう
に計するのではなく回路の簡易化と広帯域化が基本になって来ています。

簡易化は故障率の軽減と再現性の向上、広帯域化では位相特性の向上が得られますがその
半面、高調波が多量に発生しますので、切れの良いフィルターで切断する用にします。
※1最近の高周波回路の設計に付いては次回説明します。

今回は上記回路の代表的な広帯域増幅用のμPC1677を 80MHz帯FMで使用した時に発生する高
調波を例にあげてフィルターの話しを進めて行きます。
 μPC1677Cは10MHz〜1.8GHz位の広帯域で使用できる、とても便利な石で500MHz付近で使用し
たとき最も効率がよいようです、その時の利得は24dB/TYPで出力電力は19.5dBm/TYPが得られ
ます。
80MHzのFM帯で使用したときの利得は18〜20dB位で出力電力は18dBm〜19dBm位と良好
な増幅状態が得られます。  1mW入れて65〜80mWの出力が出てくる。

今回の実験で使用した回路は某社の新しいFM送信機の前段μPC1677Cまでの部分です。
 
 
 
←図1    μPC1677C 高調波特性

図1が実際にμPC1677Cを80MHz帯FMで
使用したときの高調波の状況です。
fo +19dBm  /2fo -0.4dBm  /3fo 1.5dBm
/4fo -10.5dBm  /5fo -7.9dBm  /6fo -15.
7dBm  /7fo -14.3dBmで実際には1500MHz
以上に及ぶ高調波が林のように並んでいます、
μPC1677C の特性上3,5,7次が強く出る
のが特徴です。

 


 

また、400から500MHz付近の怪しげな電波は高調波の相互干渉によるものです。
特に3次が強烈で約1.4mWの出力があり、このままアンテナから放出すると条件によっ
ては1Km位は関係の無い不用な電波が飛ぶ事になります。

便利で最近多用されているμPC1677C ですが、回路の構造上強烈な高調波が発生するので
有効なフィルター無しで終段使用は出来ません。
何度も言いますが、有効なフィルター無しでの終段使用は危険です。
μPC1677Cをフィルター無しで使用している人はきっと心臓にワイヤーブラシの様な毛が
生えているか、・・・としか言い様が有りません。

今回はμPC1677C の高調波を基本に有効なフィルターを検証してみます。
 

市販のフィルターの特性
MURATA BP JB8 はFMチューナー用の物で混変調特性を改善する目的で作られた物ですが、
非常に小型で今まで私の見てきた市販のフィルターの中ではでは最も優秀な部類に属します。

MURATA BP JB8は日本国内FM用で他にワイドFM用のMURATA WB10がありますが性能はJB8
にくらべ、いまいち良くありません。
BP JB8 は、俗に言うT型カップラーとほとんど同じ様な構造と思われますが、(インピー
ダンス特性等よく似ている)有効帯域幅が非常に広くうまく出来ています、特性データが無
いので詳しい入出力インピーダンスは解りませが、ある雑誌では75Ωと載っていましたの
で思い込んでいたのですが測定してみると50Ωでした。

 
 
←図2 MURATA BP JB8
 

このフィルターはFMチューナーのフロント
エンド用ですが、高周波回路内や少出力の
送信終段に使用できます。
対電力は 100mW位までの範囲で使えるので
送信終段に使用したときどの様な特性が得ら
れるか検証してみます。

 

 
 
←図3 MURATA BP JB8

図2及び図3がMURATA BP JB8 の周波数特性です。

中心周波数は81.5MHz付近で通過減衰率は-1.2dBm
で150〜160MHzと310〜320MHzに約-36dBmの谷
(減衰)がありますが、380MHz 以上の特性は、
おそらく周波数が高いため通り抜けているものと
思われます。また、MURATA BP JB8 は周波数特性
からわかるようにバンドパスフィルターです。

 

 
 
←図4 MURATA BP JB8

スミスチャートでインピーダンス特性を取って
みると82.2MHz付近でのVSWRは何と1.02で 78 〜
86.5MHz の間の VSWR 1.25 (サークル内)で
VSWR特性だけ見る限り十分な実用範囲内にあり
ます。

 
 


 

しかし周波数特性的には十分な減衰特性が得られていないので、JB8 1ヶのみでは、
μPC1677Cの終段フィルターとしては実用になりません。

 
 
←図5 MURATA BP JB8*2

MURATA BP JB8 を2個シリーズに接続すると
格段に切れ味がましますが、ピークの81.3MHz
での通過減衰率が-2.4dBmと悪くなります。
150〜160MHz 付近の谷(減衰)は約-70dBm位と
十分な減衰量が得られますが 310〜320MHz付近
の状況に大きな変化は見られません 380MHz 以
上の周波数の通り抜け量も多く実際に使用する
には、問題点が残ります。

 
 

 
 
←図6 MURATA BP JB8*2

なお、この通り抜けは、フィルター固有の特性の
様なのでフィルター間を隔離シールドしても改善
は出来ませんでした。

 

 
 
←図7 MURATA BP JB8*2

スミスチャートでは、サイドが切れた分だけ
VSWR 1.25の サークル外に出ています。

79.5 〜 84.5MHz の間 VSWR 1.25以内の実用範
囲内にあり、中心周波数の 82MHz付近でのVSWR
は 1.02 で2個シリー ズに接続しても VSWRの
劣化はありません。

 

 
 
←図8 MURATA BP JB8*2    

 
 
←図9 μPC1677+MURATA BP JB8*2
   /20-800 MHz  F0 16.8 dBm  F6 -31.7 dBm  

μPC1677 の終段にMURATA BP JB8を2個シリー
ズに接続し高調波の状況を測定してみると380M
Hz以上の周波数の通り抜ける特性がそのまま出
てきています。
fo 16.8dBm に対して 6fo -31.7dBmと6次高調
波を中心にレベルの高い高調波が出ているため
2個シリーズに接続してもこの状況ではμPC16
77の終段フィルターとしては使用するには、
不安がのこります。

 

 
 
MURATA BP JB8 は使用周波数範囲内のインピーダンス特性等が良好でフィルターとしては優秀
な物ですが、380MHz〜700MHzの周波数の減衰特性が悪いので2個シリーズに接続しても単独で
のμPC1677の終段使用には問題が有るので他の5〜7次高調波特性の良いフィルターと併用し
使用する。

MURATA BP JB8 は小型なので受信/送信共にFM帯の高周波回路内で使うのに適しています。
また、5〜7次高調波の比較的少ないμPC1677の以外のディスクリート終段に使用するのが
お勧めです。

もともとFMチューナーのフロントエンド用なので、送信終段に使用には問題があって当たり
前なのですがとても便利なフィルターなので工夫しだいではいろんな使い方が考えられると思
います。  MURATA BP JB8 の実測特性を有効に活用して下さい。

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